フルマラソン(特に30km、35kmぐらい)で失速する原因のひとつに下半身の筋力低下があります。ここでいう下半身の筋肉とは大殿筋とハムストリング(大腿二頭筋、半膜様筋、半腱様筋)のことです。
走る動作は一定の加速度を持った前方への移動なので、身体に「体重×加速度」の慣性力が作用します。
踵が地面に着地したとき膝は伸びているので地面からの反力は脛骨、大腿骨の長軸方向へ作用します(下図①)。
この地面の反力は股関節のところで後上方へ向かうので慣性力が作用する骨盤と体幹は前方へ倒れこむ力が生じます(下図②)。
このままでは前に倒れてしまうため大殿筋とハムストリングを使って前へ倒れないようにします(下図③)。
つまり、スピードが速くなればなるほど踵着地時に体幹へかかる力は大きくなり、体幹を安定させるために大殿筋とハムストリングはこの大きな力に対抗しなければいけません。
大殿筋とハムストリングの筋力が低下してくると体幹へかかる力に対抗できなくなるためスピードを落とすしかありません。これらの「最大筋力」を高めれば筋力低下による失速を防ぐことができます。
実業団ランナーを対象としたMRI調査の結果でもハムストリングの最大筋力が高い(面積が広い)ほどパフォーマンスが高いことが証明されてます。
では、最大筋力を高めるためにはどうしたら良いでしょうか?
普段の練習以上のパフォーマンスを大会で発揮することはできません。
普段10km走っていれば10kmを走り切れるだけの筋力しかつきません。
普段1km5分で練習していればこれ以上早いペースで走ることもできません。
毎日走ったり、ビルドアップ走によって負荷を上げれば走れる距離は伸びますが(私の感覚では多くとも3倍)、10kmだけではフルマラソンを走り切るほどの筋力はつきません。
といって練習の負荷を上げすぎれば、その分ケガするリスクも上がります。マラソンに必要な足の筋力を鍛えるには走る負荷を上げるより筋トレで高い負荷を集中的にかけた方がより効率的に鍛えられます。
これらの筋肉を鍛える私のおすすめの方法は「腰割り」と「四股」です。
筋肉を鍛えるだけでなく股関節の柔軟性も上がりさらに使えるようになるので一石三鳥です。
筋力が付いても正しく使えるようにならなければ意味がありません。
「腰割り」、「四股」って何?
そして、どのように行うのか?
以降で簡単な説明をしてますが、下記で紹介している本の方が写真付きで分かりやすいです。
著者 : 元・一ノ矢
高砂部屋(入門時は若松部屋)所属の元大相撲力士で、2007年11月場所引退。引退時点で現役最年長力士であり、昭和以降の最高齢力士。現役引退後は、引き続き部屋のマネージャーとして陰から相撲界を支え、相撲の物理的な探究を続けている。日本相撲協会・相撲指導員。最高位は東三段目6枚目(1991年7月場所)
腰割りは相撲の四股の基本姿勢です。
腰割りは簡単に言うと両脚を肩幅より広く開いて股関節を開きながらゆっくりと腰を落としていく動作です。筑波大学の白木仁教授の研究結果によると普通のスクワットより腰割りの方がより高い負荷を大殿筋に与えることができます。
さらに四股を踏むことで股関節周りのインナーマッスルを鍛えるだけでなく使えるようになります。股関節周りのインナーマッスルを使えるようになれば、表面的な筋肉に頼ることなく最小限の筋力で最大の効果を発揮する動きが可能になります。
1. 上体をリラックスさせて背筋をまっすぐ伸ばす。つま先をやや開きます。
2. 両足を肩幅より開いて股関節を開いていきます。
※ 上体はまっすぐにします
※ 股関節を意識しましょう
※ 膝とつま先が同じ向きになるようにします
3. 重心がかかと内くるぶしの真下にくるようにして股関節を開きます。
※ 肩の力を抜きましょう
※ すねが垂直になるような足幅をとります。